今から6年ほど前に書いたこの記事を覚えている方は、果たしていらっしゃいますでしょうか。
当時某オークションに出品されていたこの「雨の特別編」の台本に気づかず、後から散々悔やんだものですが、一方で長らく闇に覆われていた「雨の特別編」に関する情報の尻尾を掴む事が出来たのも記憶に新しい所。
ご存じない方のために説明すると、この「雨の特別編」は、1991年夏頃にプロ野球中継の雨天中止専用として制作された特殊な回でして、過去に何度か放送するチャンスがあったものの、雨天中止が実現しないままお蔵入りとなり、現在でも未放送という幻の作品なのです。
先日、解禁を願うファンの声に「了解しました」というスタッフからのコメントが出されたこともあり、密かに蔵出しが期待されていたりも。そんなわけで来年の到来を楽しみに待っていた矢先、私のもとに一通のメールが届きました。
雨の特別編の情報提供です。
当方、2008年に台本を入手しており、世にも奇妙な物語の最大の情報源である、ファンサイトの特別編がさらに充実することを願ってデータをご提供したいと考えています。
なんと、当時この台本を入手された方から実に6年越しにメールを頂き、さらにご丁寧にも所有されている2冊分の台本全ページの画像データを提供していただきました! ありがとうございます!
左が3話分の台本(恐らく初稿)、右が第2話「雨の酒場」の改訂稿で、当時出品されていた物と全く同一のもの。早速内容に目を通してみても、紛れも無く正真正銘ホンモノの制作台本。一足早いクリスマスプレゼントに感謝感激雨霰(T_T)
念願だった「雨の特別編」の全貌が明らかになった喜びだけでなく、その内容が我々のこれまでの常識を大きく覆すシロモノであった事が発覚し、長らく解読できなかった古文書を読むことができた考古学者の心境が僅かながらも判ったような気がします。
いやぁ、まさか「雨の特別編」がここまで挑戦的な回だったとは……! まさにコペルニクス的転回と言いますか、あまりの衝撃で未だ興奮と動揺が収まりません。
……はい。そろそろ、お前の御託はいいからさっさと内容を教えろという声が出始めている頃だと思います。お待たせしました。ここからは、今回提供していただいた台本の一部を引用しつつ、長らくベールに包まれていた「雨の特別編」の“本体”をご紹介致しましょう!
※ 来年本回が解禁される可能性があることと、私個人がネタバレNGなタイプであるため、物語の重要部分に全く目を通していませんので、ストーリー自体はサワリのみの紹介に留めさせていただきます。また、情報元はあくまで制作台本であるため、実際のものとは一部異なっている可能性があります。
◆ 制作スタッフ
なんといってもやっぱり気になるのが「雨の特別編」の脚本&演出の面々。
私の予想では共同テレビ制作ということなので、星、落合、小椋のゴールデンメンバーが起用されているのだろうと思っていたのですが、いざ蓋を開けてみるとなんともシンプル。
以上、お2人のみとなっています。言われてみれば「雨の特別編」という発想が何とも星監督っぽい! 他、プロデューサーや、企画等のスタッフは基本的に第2シリーズお馴染みの面々なので特に特筆すべき事は無い模様。
◆ プロローグ&第1話「猿の手」
さて、ここからはいよいよ本編に切り込んでいきたいと思います。
最初にご紹介するのは「雨の特別編」のプロローグ。以前カルトクイズの際にもご紹介しましたが、「雨」をテーマにした回らしい導入部となっています。
○【プロローグ】
黒バックの中、ストーリーテラーが立っている。
背景にドアと洋風の大きな窓がある。
どこからか雨の音が聞こえる。
タモリ「昔から、雨というのは物語に欠かせない要素のひとつでした。小説や映画、そしてテレビにもいろんな雨のシーンが登場し、様々な効果を演出してきました。『雨の降る夜には、予期せぬ訪問者が訪れる』昔から西洋には、そんな言い伝えがあるといいます。はたして、今夜はどうでしょうか?」
ストーリーテラーが後ろを振り向くと、ドアがゆっくりとひとりでに開く。
その中には、もうひとりのストーリーテラーが椅子に座り、本を持っている。
ここで少し気になるのが、ドアの向こうにいる本を持ったもう一人のストーリーテラーの存在。当初は何気なく読んでいましたが、ここが盲点だったんです。先入観に囚われすぎていたんですね。
プロローグ終了後、気になる第1話「猿の手」は以下のように始まります。
○【第1話】
ストーリーテラー、手にしていた本を開く。
1話目のタイトルが出る。
『猿の手』W・W・ジェイコブズより
タモリ「外は雨がしょぼしょぼと降っていた。こぢんまりとした客間にはブラインドが下ろされ、居間ではその家の老主人のホワイト氏と息子のハーバートがチェスをさしていた」
物語に合わせて、雨の絵とかがストーリーテラーの顔にオーバーラップする。
……なんとなく、ここまで読んで察してきた方もいるのではないでしょうか。
今度はさらに、この第1話のラストシーンの内容をお教えいたしましょう。
ストーリーテラー、パタンと本を閉じ、カメラの方へ視線を向ける。『世にも奇妙な物語』の字が浮かぶ。
○ CM
はい、もうお判りですね。そうです、そのまさかなのです。
なんと、ストーリーテラー自身が視聴者に向けて本を朗読するだけなんです!
つまり「雨の特別編」とは、物語自体を映像化しないという超異質なコンセプトの基に制作されていた回だったんですよ! この内容を予想していたファンは恐らく一人もいないのでは。まさに盲点。
もうこの事実だけでもうお腹いっぱいといった感じですが、勘の鋭い方はこの辺りで「おかしいぞ?」と思うのでは無いでしょうか。続く第2話「雨の酒場」では、うちのサイトにあるとおり、“みのすけ”さんという俳優の方が主演を務める事になっており、台本にもしっかり明記されています。
結論から言えば、第2話は朗読ではなく通常通りのドラマ仕立てになってはいます。
いるんですが、特殊なコンセプトの回ですから、当然普通の内容にはなっていないようで……。
◆ 第2話「雨の酒場」
○【第二話】
黒バックの中、ストーリーテラー。
タモリ「あなたの住む場所に、突然不思議な来訪客が訪れる。奇妙な物語はそこから始まります。
しかし、あなたがどこかの場所を訪ねた時、そこがあなたの運命を大きく変える、そんな場合もあるのではないでしょうか」
『危険な賭』〔再録〕
上記は初稿版の台本より抜粋したもの。と言っても、第2話の部分に書かれている文章はこれで全部なのです。
ここでの“再録”とは、前身番組『奇妙な出来事』の第8話「危険な賭」のシナリオをそのまま使用するという意味なのか、それとも同じ映像を使いまわすという意味なのかは判りませんが、初稿の段階では朗読というスタイルでない事は間違いありません。
一方、改訂版ではこの第2話は「雨の酒場」と改題されており、当初「危険な賭」の設定を変更したリメイク版かと考えていたのですが、内容に目を通す限り完全な別物。しかも、より本回のコンセプトを重視した内容に生まれ変わっていたのです。では、改訂版の内容をご覧頂きましょう。
○【第2話 プロローグ】
雨の街角、傘を手にしたストーリーテラーが立っている。
タモリ「あなたの住む場所に、突然不思議な来訪客が訪れる。奇妙な物語はそこから始まります。しかし、あなたがどこかの場所を訪ねた時、たとえばこんな夜、雨宿りにフラリと立ち寄った酒場のドアが、奇妙な世界へとつながっている、そんな場合もあるのではないでしょうか? たとえば、彼のように……」
ストーリーテラーが振り向くと、雨の中、傘をささずに主人公の男が小走りに道路を横切って走るのが見える。
初稿と比べて少々様変わりしたように思います。しかも、第1話と比べ、これぞ「世にも奇妙な物語」の導入部といった趣き。ここからどうなるのか、シナリオの冒頭部分を数ページ分ご紹介しましょう。
○【雨の街角】
主人公の男が、舗道の脇のひさしの下まで走って来て、一息つく。
濡れた上着から雨粒をはたいている男。普通のサラリーマン然とした格好。
フト、男の視線に酒場のドアが止まる。
雨空を見上げてから酒場の方へ走り出す。
○【酒場の中】
静かな音楽が流れる店内、かなり混んでいて、会話する声が切れ目なく続いている。
大きな木製のドアが開き、男が入ってくる。
一瞬、会話の喧騒がピタリと止まる。
店の客が男に向かって視線を投げ掛けている。
戸惑う男の表情。
やがて、なにごともなかったように、再び自分たちの会話に戻っていく客たち。
男、いぶかしげに店内を進み、カウンターの空いていた席に座る。
居心地が悪そうに、自分の肩ごしに店内をソーと盗み見ようとする男。
男の前にコースターがスッと差し出される。
振り返るとカウンターの中にマスター。
独特の雰囲気のあるマスターの顔。
男「(それに気づいて)ああ……ビール……いや、いきなり雨に降られちゃってさ」
マスター「結構降ってますか?」
男「うん。いや、でも助かった。こんなところにこんな店があるなんて、今まで気がつかなかったな。最近出来たの?」
再び、喧騒がピタリと止まる。
店の客が男の方を注視している。
ピクッとして男がマスターの方を向くと、マスターは黙ったまま男の顔を見つめている。やがて、
マスター「(ボソッと) いえ。ずーっと前から、やってます」
男「あ、ああ、そう……」
マスターはその男のセリフを無視するように、男の前にビールとグラスを置く。
再び店内に喧騒が戻ってくる。
男、もう一度肩ごしに店内を見回す。
これといって変なところは見当たらない。店の様子にも、客達にも。
ただ、あんまり男と同じような人種はいない。
振り向いて視線を戻すと折れ曲がったカウンターの一番ハシに背広の男が座っている。
カウンターのコーナーにある店の電話で誰かと話している。
なにげなく、その方へ視線をやる男。
男の視線の中で以降の話が繰り広げられる。
背広の男「……ああ、うん。もうしばらくここにいるから、状況が判り次第電話してよ。うん、じゃ、ヨロシク」
もう、大半の方にはこの話の意図がお判りのことと思いますが、続けて背広の男の話が終わった直後のシーンも抜粋してみましょう。
ビールを取り出し、カウンターを出て行くマスター。主人公の男はけげんな顔でそれを見つめている。
その男の反対側から、年配の男が唐突に声をかける。
年配の男「あの、あなたは不老不死の人間っていると思いますか?」
男「──」
ビックリして振り向く主人公の男。
年配の男「突然ですいません。でも、ちょっと話を聞いて欲しかったもので」
カウンター、ひとつ置いた隣の席に年配の男が座っている。
年配、といっても年令不詳な感じの男。
年配の男「よかったら、話につきあってもらえませんか?」
主人公の男、戸惑いながらも、
男「ええ、いいですけど」
年配の男「よかった」
軽く微笑む年配の男。軽く腰を浮かしかけると、
男「(自分の隣の席を勧める) あ、どうぞ」
年配の男、その席に座り、主人公の男はやっと落ち着きを取り戻す。
年配の男「本当によかった」
男「えっ?」
年配の男「話を聞いてくれる人を探していたものですから」
男「ああ……」
主人公の男、納得した顔つきになる。ひと間おいて、
男「不老不死がいるかどうか、ですよね……?」
年配の男「ええ」
男「さあ、いるんだかいないんだか……でも、どうしてまたそんな話を?」
年配の男「実は、私は不老不死の人を捜して、世界中を旅してきたんです」
男「へえ……世界中ねぇ」
水をひとくち飲む主人公の男。
なんとなくこの年配の男の作り話に付き合おうという気になっている。
さらに、この年配の男の話が終わった後のシーンを。
年配の男、そのまま席を立ち、出口の方へと歩いて行く。それを追い掛けるように主人公の男が視線で追うがカウンターの隣の二人連れの男の客の姿に阻まれて
見えなくなってしまう。
そのまま、名残惜しそうに、出口の方を唖然と眺めている男。
やがて溜め息をついて、自分のグラスを一口飲む。
もう一度出口の方をチラリと見ると、そっち側の隣のカウンターの二人連れの客の会話が耳に入る。
作家風の男が話し手で、編集者風の男が聞き手に回っている構図。会話が途中から聞こえる。
主人公の男は、聞くとはなしにその話を耳にしている感じ
聞き手「……ふーむ、謎だね、それは」
話し手「どうだい? 結構いけるネタだろ」
聞き手「ああ、面白い、他に何かないのかい?」
話し手「そうだなぁ……あの話はしたかな? 劇作家の……」
聞き手「いいや」
話し手「そうか、あれは確か……うん」
主人公の男、二人連れの方をチラリと横目で見て、話に反応した様子。
……とまぁ、お判りのようにこの第2話では酒場の客たちが繰り広げる3つの物語を主人公が聞いていくという構図になっているんです。ドラマ仕立てとはいえ、それぞれの物語にはイメージ映像は一切出ず、ただ物語る人物を眺めるだけというコンセプトがここでも生きています。
ちなみに、劇中で語られる3つの物語はすべて原作があるようで、台本にもしっかり明記されています。気になってたまらない方のためにお教えしますと、1話目は星新一さんの「なんでもない」、2話目は高井信さんの「不老不死を信じますか」、3話目はB・ペロウンの「穴のあいた記憶」とのこと。
ついでにオマケとして第2話のキャスト&役名も掲載しておきましょう。
ここにも、星作品常連の吉田紀之(現:ヨシダ朝)さんがいるなど、実に監督らしいキャスティングです。このうち大堀浩一さんは96年に星監督が手がけた「壁の小説」でも編集者の役をされており、意外なリンクの存在が明らかに……!
◆ 第3話「あけたままの窓」
残る最終話「あけたままの窓」では第1話同様、ストーリーテラーによる朗読となっています。
○【第三話】
黒バックの中、ストーリーテラーが椅子に座っている。
ストーリーテラー、手にしていた本を開く。
3話目のタイトルが出る。
『あけたままの窓』サキより
タモリ「『伯母はすぐ下りてまいります、ミスター・ナテル。失礼ですがそれまでわたくしがお相手いたしますわ』と、落ち着き払った若い女性がいった」
気になるのが朝日新聞に掲載されていたスチール写真ですが、恐らく実際の完成版では一部にイメージ映像か写真の挿入等が行われているのかなとも。初稿の段階でコンセプトがしっかり固まっているようなので、結局普通にドラマ化したという事は無いと思いますが……ああ、完成版が見たい!(- -;)
◆ エピローグ
○【エピローグ】
プロローグと同じ場所に、ストーリーテラーが立っている。
タモリ「今夜の『世にも奇妙な物語』雨の特別編、ちょっと趣向を変えてお送りいたしました。いかがでしたでしょうか?」
雨の音が聞こえる。
タモリ「私が住むこの世界も、どうやら今夜は雨が降っているようです。こんな夜は静かな部屋でひとり、窓の外の雨音に耳を傾けながら、本を読むのもいいでしょう。ひょっとすると雨音にまぎれて、いつの間にか奇妙な訪問者があなたの家のドアをたたくかも知れません」
ドアをかすかに叩く音がする。
ストーリーテラー振り向く。
なおも聞こえるドアの音。
そのドアにエンドタイトルがかぶさっていく。
“雨の夜に、静かに物語を楽しむ”という、雨の特別編のコンセプトらしいエピローグです。
改めて本回のコンセプトと全貌を掴むと、何故そこまで雨の日にこだわって一切妥協しなかったのかが一層理解できた気がしますね。というか、こんなとんでもない回を、雨傘用とはいえ、普通にゴールデンで放送しようとしていたなんて、当時としてもかなりチャレンジャーすぎますよね、いくらなんでも(^^;)
というわけで、以上シナリオによってその全貌が大きく明らかになった「雨の特別編」でした。
これらを読んで、ファンの中には未だその衝撃が抜けていない方が多少なりともいるのではないでしょうか。
思えば、こういったチャレンジ精神は番組の要である事を重々知っていたはずなのに、いかに己が固定観念に囚われすぎていたかが判りました。おまけに、こんな番組史上最大の大どんでん返しをかまされて、大変気持ちも爽やか。もう何というか……貴重な資料を本当にありがとうございました!
放送25周年という節目の年を目前にしてこういった貴重な資料を見る事ができるなんて、これはもしや来年「雨の特別編」が解禁される前触れでは?と単純にも程がある私ですが、コケの一念岩をも通すという言葉もあるくらいなので、愚直に信じて解禁の日を待ちたいと思います……!
なお、今後も「雨の特別編」に関する情報は受け付けておりますので、決定稿やTV誌などの資料を所持されているなど、より詳しい内容をご存知の方は是非、当方までご一報ください! m(_ _)m