サンテレビの再放送で、昨年の同じ月以上に来訪者が増えている今日この頃。
これまで千葉や神奈川で放送されていなかった「ルームメイト」の回や「前世の恐怖」の回も追加されているようで、関西在住の世にもファンには嬉しい事ばかりで羨ましいですね。
さて、先日、いつものようにネットで「世にも奇妙な物語」情報を調べていると、
「世にも奇妙な物語のストーリーテラー部分を貼っていく」という記事がいくつかヒットしました。
文章を見る限り、データベースさんや、このブログで過去に行ったストーリーテラークイズをそのまま転載している様でしたが、コメント欄を覗くと意外にも評判が良いみたいで、秋SPまで特にネタもないこのブログも微妙に便乗(?)してみようかなと。幸い、何らかのコーナー用兼ファンの方からの質問に回答しやすくするために、全作のストーリーテラーを前もって書き出してありますし……。
が、そこまで考えた所で、ふと「単にストーリーテラーを貼り付けていくだけというのも芸が無さすぎるな」と。
濃いマニアの方にも、日の浅いファンの方にも、奇妙な世界の奥深くまで紹介するという建前でやっているブログなわけですから、どうせなら別な切り口で紹介できないかなと。……そこで一つ良いアイディアを思いつきました。
私がここ10年ネットや古書店で集めた「世にも奇妙な物語」約150話分の台本。
映像化が決定した「決定稿」と呼ばれる台本はもちろん、「準備稿」「改訂準備稿」「改訂稿」といった数種類のバージョンがある台本も存在しており、その中には、初期段階にあったのみで決定稿で削除されてしまった箇所や、決定稿でありながらカットされてしまった箇所などが確認できます。
そこで今回、その中から映像化されなかった・もしくはカットされてしまったストーリーテラーを書き起こし、それらを過去にブログで紹介した分も含めて、実際のストーリーテラーと比較していくという、名づけて「幻のストーリーテラー」を、数回に分けてご紹介していきたいと思います。
ここでしか見られない、貴重なストーリーテラーの数々……。
そろそろ奇妙な世界が恋しくなってきてしまっている奇妙ファンの皆様に送ります。
※ "台本版"の文章に関しては全て台本内の記述に準拠しています。
◆ 半分こ (1990年7月12日)
【放送版】
歩いて来るタモリ、半分にちぎれた一万円札を見つける。
「皆さんこれが何だかお分かりですか。そうです。半分に切った一万円札です。
そんなもんどうすんだって? 何の価値も無いじゃないかって? そうなんです。何の価値もありません。
でも、一万円を半分に切って五千円にならないってのは不思議だと思いませんか。
車に乗っているタモリ。料金所の機械が声をかける。
「二千五百円デス 二千五百円デス」
タモリ、一万円札の切れ端をさらに半分にちぎり、機械に渡す。
「アリガトウゴザイマス」
ニヤリと笑うタモリ。
まずは実際の放送版。「半分こ」という作品のモチーフを端的に表しているシンプルな内容です。実際には半分にちぎれた一万円札は銀行に持っていくと、五千円と交換できますが、それをさらに半分に破ると価値が失効してしまう様ですね。
そんなある意味奇妙でもあり、為にもなるストーリーテラーでしたが、一方台本段階では円周率を使って、半分こというモチーフを表しているようです。
【没パート】
〇 3.141618……、団地の路上に白く数字が連なる
階段を下り、建物の角を曲がり、延々と続く。
カメラ、這いつくばって一心にチョークをふるう男を捉える。
三輪車に乗った数人のガキンチョがうるさく付き纏っている。
顔をあげる路上の哲学者、タモリ、かく語りき。
「あなた……、この世の中に、何か釈然としない感じ、まるで靴の上から足を掻くような、或いは、ガラスに爪で引っ掻くような、えも言われぬ歯がゆさ、割り切れなさを感じている、あなた……。私はこう思うのです……人生はπなり! 円周率なり! つまり、かくの如く、割り切れず、長く、くねくねと、永遠に続いてゆく苦役である、と」
深い憂愁を湛え、さらに書き続ける。
無関係に三輪車を漕ぎまくるガキども。
「……今のこの私の姿こそ人間の実在そのもの。人生の実相。……何がワン、ツー、パンチだ。何が楽ありゃ苦もあるさだ。……まさしく、人生とは割り切れぬもの! 円周率こそ人生の鏡! 私はその不条理をこうして一身に体現して、巷をさ迷い、這いつくばり、訴え続け……ん?」
タモリ、手元を見る。0と記されている。
「エ……0? てことは……前が1あがって、ににんがしの……さぶろく……割り切れた? そ、そんな馬鹿な!」
狼狽えて検算する。
「割り切れる……う、うそだ。人生とは割り切れぬπ、つまり円周率のようなもの……ははは、ねえ、皆さん、信じてください、こ、こんな、不条理な、ねえ、ははは……割り切れてたまるか──」
タモリ、必死でガキどもにまで訴える。
ガキども飽きてカタカタ三輪車をこいで行ってしまう。
ガキどもの行く先に広がる巨大団地に──タイトル「半分こ」
◆ 時のないホテル (1990年7月26日)
【放送版】
「近代的な設備は何も無いんですが、隅々まで真心の行き届いたこういった古き良きホテルも良いんじゃないでしょうか。しかし、近頃のお客様はこういったホテルはお望みでないようで。所詮、古き良き時代の郷愁かもしれません。世知辛い世の中です」
電話がかかる。
「ちょっと失礼。はい、グリーンホテルでございます。はい、ご予約でございますか。はい、ありがとうございます。ええ、当然でございます。あ、これは旧館の方でございまして。プールはもちろん、アスレチッククラブなど近代的な設備を整えた新館の方が……」
放送版では、フロントマンの格好をしたタモリがお客からの電話を受けている途中で音声がフェードアウトし、
いつものテーマ曲ではなく、イギリスのロックバンド"ピンクフロイド"の楽曲がEDテーマとして流れるという、かなり異色の構成であるため、最後まで台詞を聞くことは出来ません。
が、台本を読む限りでは、映像版から感じられるような皮肉ぽさというよりも、時代の変化を前にした哀愁も感じられるという、受けるイメージが異なった内容になっています。
こちらのバージョンにしても良かったんじゃないかなぁ。なんて思うのは今更すぎでしょうか……。
【没パート】
フロントの上に飾られたひまわり──
タモリ、ホテルのフロントマンの格好で現れて──
「近代的な設備はなにもございませんが、隅々まで真心の行き届いた、こういった古き良きホテルもよろしいのではないでしょうか。でも、近頃の御客様はこういったホテルはお望みでないようで。所詮、古きよき時代の郷愁かもしれません。せちがらい世の中でございます」
と、電話が鳴る。
「ちょっと失礼──はい、○○ホテルでございます。御予約でございますか──はあ、当然でございます。
それは旧館の設備でございます。プールはもちろんアスレチッククラブをはじめ、近代的な設備を整えた新館がございます。もちろんでございます。リゾートホテルとして生まれ変わった当ホテルをご利用いただければ、はい、お待ちもうしあげております」
電話をおく、タモリ、ホッと溜息をついて──
「わたくしも30年も昔のホテルに勤められれば、幸せだったのでしょうが──」
静かに揺れるヒマワリ。
◆ 仰げば尊し (1990年9月6日)
【放送版】
「人はその人生の中で、多くの過ちを犯します。そして多くの場合、自分の犯した過ちに気づくことなく、その生涯を終えます。とうの昔に忘れてしまった取るに足らない悪戯や意地悪も、される側には、
深い傷となって一生残ったりします。皆さんも気をつけて。それではまた」
放送版では、作品の内容を踏まえた上で簡単にまとめていますが、台本段階でも概ね内容は放送版と同じなものの、その語りの中には、劇中に登場する"秒針が逆に動く時計"というモチーフも加わり、より人生とその中での過ちについて考えさせられる物となっています。
【没パート】
「私の人生もまた一分減りました。人はその一生の中で、多くのあやまちを犯すものです。
そして多くの場合、人は自分の犯した過ちに気づくことなく、その生涯を終えます。
……とうの昔に忘れてしまった取るに足らない悪戯や意地悪も、された側には深い傷となって一生残ったりします」
時計の針が逆行する音
「(ちらりと時計を見て)こうしている間にもまた私の人生は更に短くなっていきます……それではまた……」
◆ 極楽鳥花 (1991年2月21日)
次のストーリーテラーは、以前もブログでご紹介しました「極楽鳥花」のものですが、この語りはちょっと特殊でして、作品の順番が変更されてしまった為に没となってしまったストーリーテラーだったりします。
ご存知の方もいると思われますが、各話の始めや終わりに必ずタモリの語りが入るのは"特別編"のみのことであり、毎週3話ずつのレギュラー放送版では、一部の例外を除き、第1話の冒頭と第3話のラストの計2回のみに語りが入るようになっています。
実際の放送では「極楽鳥花」は2話目に編成されているため、タモリの語りが入ることはまずありません。
しかし、台本を見る限りではどうも3話目の予定だったようなのですが……。そう考えると、貴重なタイプの没ストーリーテラーですね。
【没パート】
〇駅・ホーム
がらんとしたホームにタモリが、ぽつんと立っている。
その手に極楽鳥花の鉢植えがある。
タモリ「人間の記憶というやつは、実に曖昧なものです。
過去の出来事を人に話して聞かせるうちに、いつの間にか、自分の都合のいいように脚色して語っていた
といった経験が、皆さんにもあるのではないでしょうか。
ところで、少女に手をひかれて、この世ではないどこか別の世界へ連れさられた。
あの男は、本当に女を殺していたのでしょうか。それとも奇妙な情熱につかれた少女の幻想だったのか。
──今となっては、すべて藪の中です。
真実を知っているのは、多分、この美しい極楽鳥花だけ……では、又、来週、この時間にお会いしましょう」
以上「幻のストーリーテラー Part.1」でした。
次回Part2は、第2シリーズ後期~第3シリーズのもの中心でお送りする予定です。お楽しみに。