世にも奇妙な物語 ブログの特別編

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「発電課長」プロット

"プロット"という物をご存知でしょうか。

 

プロットとは、脚本の手前の段階となる「簡単なストーリーの流れ」を書いた文章のこと。(あらすじとはまたちょっと違うようで、そちらは「シノプシス」と言うそうです)。

 

脚本家の世界では「良いプロット」が重要視され、プロット専門のライターもいるほどだとか。我らが『世にも奇妙な物語』の場合も、このプロットが重要視されます。

 

毎回数百本のプロットが提出され、選ばれた数編が映像化されるという手順になっていますが、この「プロット」……なかなか、いや、まず表には出ることはありません。

 

シナリオの場合だと後々本になったり、ならずとも、制作の段階で既に冊子になっていますから、古本屋や専門店などで流通する場合もあり、様々な方法で入手することは可能です。

 

しかし、プロットの場合、脚本、演出、プロデューサーらしか見ないので、単なるコピー用紙、数枚で済みますし、最悪、脚本家自身のパソコンの中にあるだけなんて場合もあり、まず公に出ることはありません。

 

それもそのはずで、シナリオでも何でもない草案のプロットを視聴者は見たいとも思わないでしょうし、スタッフも、シナリオになってしまえば、必要だとは感じないでしょう。破棄する場合も多いようです。

 

一部の資料を調べると、プロットの内容はわかってもプロット自体を見る事は出来ません。「シナリオの方が確かに見ていて面白いけど、プロットも気になる…」。マニアの性ですね。

 

 

……しかし! 探してみれば意外とあるもので、2000年11月に発行された「月刊シナリオ教室 12月号」と言う雑誌に、ある作品のプロットが掲載されているのを発見。

 

その作品とは2000年秋の特別編で放送された「発電課長」。2007年と2010年には「傑作選」でも再放送され、ファンからも人気がある作品ですね。

 

掲載に至った経緯は、発行元の「シナリオ・センター」で学んでいる生徒の一人が、1999年に行われた「世にも奇妙な物語 企画ガイダンス」にて「発電課長」が採用された為とのこと。

 

ちなみにこの「シナリオ・センター」の卒業生には、「爆弾男のスイッチ」の武井彩さん、「ゴミ女」の佐藤万里さん、「言葉のない部屋」の扇澤延男さん、「どつきどつかれ…」の浜田秀哉さん、「自販機男」の加藤公平さん、「ビデオドラッグ」の中園健司さん、「ダジャレ禁止令」の大野敏哉さん、「瞬」の岡田惠和さん、「追いかけたい」の山浦雅大さん、「推理タクシー」の古家和尚さん、「Be silent」の李正姫さん、「噂のマキオ」の戸田山雅司さん、「ベビーシッター」の土屋斗紀雄さん等など……番組に関わっている脚本家を大勢輩出している学校なんですね。

 

そんな学校に通う、未来の『世にも』スタッフ候補生らのプロットから選ばれたのが『発電課長』だったとなると、どんな凄いプロットだったのか気になりますよね。

◆ 「発電課長」実際のプロット

では、いよいよその貴重なプロットの内容をご覧いただきましょう。

 

自宅。朝、新聞を読む大塚。

見出しには「原発廃止案を正式決定」

 

原発なんて、なくなって当然だな」

するとテレビから、

「政府はこれにともない、納電や自家発電の義務を打ち出しています。」

大塚はテレビに気付いていない。

 

会社。大塚は課長の席に座る。そして、部長の新田がきて、

「これからは節電に心がけないとね」

「はあ、そうですね」

「自家発電案も通りそうだから」

「自家発電?」

「何だ。知らないのか?」

 

数ヵ月後。

会社。大塚、仕事をしていると電気が消える。

部下たち、大塚を見る。新田も見る。

「すまんね、大塚君」

大塚、渋々自転車のような物に乗りこぎはじめる。すると電気がつく。

「課長、パソコンが使えません。もっとこいでください」

大塚、さらにこぐ。

「課長、コピーが使えません」

大塚、もっとこぐ。しんどそう。

 

自宅。大塚、ビールを飲んでいると妻が、

「あなた、電気納めてくれない」

「え?」

「先月たりなかったらしいのよ。それで督促状きて」

「え、淳司にやらせろよ」

「何言ってるの、一番大事なときに」

「今日はかんべんしてくれよ」

すると、電気が消える。

「もう、かんべんしてくれよ」

 

会社。大塚が、仕事をしている。疲れている様子。

また、電気が消える。部下たち大塚を見る。そして、新田も。

大塚、自転車をこぐ。こいでいたら倒れる。

 

病院。大塚、手術台に寝ている。医者達手術をはじめようとする。

すると、電気が消える。淳司が自転車をこいでいる。

「父さん、がんばれ」

大塚、淳司に気がつく。

「淳司、ふはっ」

こぎすぎで、医療機器が誤作動している。

大塚が苦しそうなので、淳司もっとこぐ。

「死ぬな。父さん」

大塚、さらに苦しそう。

「あっ、あつし。やっ、やめ……」

 

心電図が一本線になる。

 

……いかがだったでしょうか。数百名の生徒たちの中から唯一選ばれたプロットは。

 

このプロットを見るなり、番組の小椋久雄プロデューサーは即座に採用を決定したという話も合わせて聞くと、「これが…?」と思う方も意外といるのでは。

 

物凄いどんでん返しがあるわけでもなし、伏線どころかオチも何だか投げやりな印象。私が選ぶ側だとしても「オチにもっと工夫が欲しいな~」と思っちゃいそうです。

 

しかし重要なのは、これが脚本ではなく『プロット』であるということなんですね。

 

世にも奇妙な物語』の場合、プロットは『良い題材』、つまり原石を選るための物。"完成された良作"ではなく、"良作に化けそうなもの"を選ぼうとしているわけですね。

 

この辺りのことは、同雑誌に掲載されていた小椋プロデューサーのコメントをご覧いただければわかりやすいかと思いますので、ちょっと引用。

 

小椋「(「発電課長」は)思い付きがそもそも面白かったという稀有な例です。稀にこういうものもあるんですね。

 

『さえないリストラ間近な中年サラリーマンが会社のために夢中になって自転車をこぐ』、もうこの思いつきだけで飛びつきましたね」

 

小椋「プロットには親子の情もあったので、それを我々で膨らまして親子のドラマを濃くしたり、男達の連帯感を出して、最後ロケットの打ち上げまで持って行きました。

 

そこまでいけば、僕ら何本もやってますから、打ち合わせで色々なアイディアを出せるし、ディレクターからも意見が出ますし、面白くなっていくんですね」

 

小椋「大事なのは、これはショートストーリーですから、始まって1分か2分で、物語の背景や主人公のキャラクターがわからないといけない。

 

『発電課長』の場合、始まって1、2分で、戦争のせいか、発電所の事故のせいかわかりませんが、あの世界には電気がないことがわかる。

 

そして、主人公がリストラ間近の社員で、唯一の仕事が自転車をこぐこと、彼はなさけなく、決して幸福ではないことがすぐに判るんですね。

 

説明に長々と時間がかかるプロットはあまり良いとは言えないわけです」

 

小椋「圧倒的にアイディアが面白ければそれだけで通るかもしれませんが、それはめったに無い。

 

やはり必要なのは「人間ドラマ」があること。コメディであれSFであれ「ドラマ」の部分がないと通らないかなと」

 

シナリオとプロットの関係というものが、なんとなくおわかりいただけたでしょうか。

 

将来、世にも奇妙な物語を書きたいと思っている方、現在進行形で書いている方、これらを参考に良いプロット作りを是非頑張ってください!